ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
「愛花? ねえ、どうしたの」
携帯を握る手首を掴まれて、ハッとする。
わたしの視界に、美月が顔を覗かせた。
「あ……」
全身の血が冷え渡って、動悸が高まっていた。
わたしはもう一度、携帯をしっかりと耳に当てた。
「……叔母さん。わたし、今から、すぐそっちに行くから……!」
焦る思いで告げて電話を切ると、わたしは着信履歴を確認する。
一時間目が開始して少しした頃から、病院からと、叔母さんからとの着信が、立て続けに残っていた。
マナーモードのまま鞄に入れてたせいで、気づけなかったんだ。
——とりあえず、おーちゃんに、連絡……。
……ううん。
きっと、叔母さんもおーちゃんの連絡先を知っているから、伝えてくれるはず。
それより、早く行かないと……!
おぼつかない足を奮い立たせて、わたしは急いで荷物をまとめた。
「ちょ、ちょっと、行くってどこに? 何があったの? 授業は?」
わたしの急く気持ちが伝染したのか、美月が混乱した様子で尋ねてくる。
「ごめん、後で電話する——早退したって、先生に言っといて!」
乱暴に鞄を背負うと、美月にそう言い残して、わたしは教室を飛び出した。