ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-


ガラリ、と病室の扉を力任せに開くと、中にいた人たちが振り返った。


「愛ちゃん……っ」


わたしを見て、叔母さんんが声を上げる。

ベッドをとり囲むようにして座っている叔母さんと、叔父さんと、いとこの(しん)くんの顔を、わたしは順番に見た。

久しぶりに会うというのに、全力で走ってきたせいで息を整えるのに精一杯で、挨拶の言葉は出てこなかった。

叔母さんは立ち上がると、こちらに駆け寄って、わたしを強く抱きしめた。

そして、すぐに腕を解くと、涙ぐみながらわたしを見下ろした。

しばらく見つめ返していると、優しく背中を押されて、病室の中へと促される。

わたしの呼吸は、ちっとも落ち着かなかった。

ましてや、どんどん鼓動が速くなっていって、息苦しさを覚える。

ベッドに近づくと、……わたしの肩から鞄がずり落ちて、ドサリと床で音を立てた。

この目に見えているものが、現実なのか、夢なのか、わたしには自信がなかった。

やっと視線が合わさったというのに、視界はすぐにぼやけて、何も見えなくなってしまった。


「——お姉ちゃん」


震える声で、わたしは呼びかけた。

< 348 / 405 >

この作品をシェア

pagetop