ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
瞬きをすると、再びはっきりとした視界で、重たそうな瞼を開けてこちらを見る瞳と、ぶつかった。
「……あいか……」
わたしを呼ぶ声が返ってきた瞬間、——わたしの足は、床を勢いよく蹴っていた。
ベッドに横たわるお姉ちゃんに、しがみつくように抱きついた。
崩れ落ちるように膝をついて、せき止めていたものが一気に溢れ出すように、涙がとめどなく流れ始めた。
「おねえ、ちゃん」
——この瞬間を、何度も、思い描いていた。
上手く想像できなくて、悪い考えが何度も頭を過ぎったこともあった。
……それでも、上手く想像できたときには、……きっと、わたしの名前を呼んで、優しく頭を撫でてくれるだろうって、思ってた。
「お姉ちゃん……っ」
わたしは、この1年間の空白を埋めるように、何度もお姉ちゃんを呼んだ。
まるで小さい子供のように、わんわんと声を出して咽び泣いた。
「愛花……」
目を覚ましたお姉ちゃんは、わたしの想像通りの声で、わたしを呼び返してくれた。
そして、……わたしの想像通りに、泣きじゃくるわたしの頭を、ずっと優しく撫でてくれていた。