ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-



***



「午前中に検査を終えて、……とりあえず、まだしばらく様子を見てから、そのうちリハビリを開始しようって、お医者さんが」


ようやく落ち着いたわたしは、叔母さんの声を、ふわふわとした気分で聞いていた。


……まだ、どこか夢心地だった。

それでも、お姉ちゃんとしっかりと握り合っている手から感じる熱が、これが現実なのだと物語っていた。

抱いていたはずの罪悪感も、気まずさも、……いざお姉ちゃんを目の前にすると、すべてがどうでもよくなってしまった。

ぎゅう、と手に力を込めると、お姉ちゃんがわたしを引き寄せる。

腫れぼったくなっているわたしの瞼を優しく撫でたお姉ちゃんは、困ったように眉尻を下げた。


「……いっぱい心配かけて、ごめんね」


わたしは、ふるふると力強く首を振った。

そして、


「……おかえり、お姉ちゃん」


ずっとずっと言いたかったひとことを告げる。


「……ただいま、愛花」


わたしは、……もう、この手を離したくない。

お姉ちゃんが元気でいてくれるだけで、——それだけで、いい。

< 350 / 405 >

この作品をシェア

pagetop