ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
「……おーちゃん……ありがとう。……愛花のこと、叔母さんから聞いたの」
おーちゃんが、顔を上げる。
すぐそばにいる叔母さんたちの存在に、たった今気がついたようで、慌てて立ち上がった。
「わ、すいません……挨拶もしないで……」
おーちゃんの手が、わたしから離れる。
「いいのよ、そんなの。……こちらこそ、仕事中に連絡しちゃって、ごめんね」
「いえ。こうして飛んでこれたんで、助かりました」
お姉ちゃんが、心配そうにおーちゃんを見つめた。
「……仕事、へーきなの?」
「平気。つーか、こんなときに仕事なんて手につかないって」
「……それで、飛んできてくれたんだ」
「当たり前だろ」
わたしは、ゆっくりと後ずさる。
安心したようにおーちゃんを見上げているお姉ちゃんを視界の端に映して、……わたしはひとり、病室の外へと出た。