ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
おーちゃんの言葉に、わたしは黙ったままお鍋をかき混ぜる。
「そうだね」とは、答えられなかった。
——二度と、会わない、か……。
……会わなくなって、きっぱり忘れてしまうのが、いいのかもしれない。
そんな神様の、お告げなのかもしれない……。
……お姉ちゃんには、きっとおーちゃんの存在が必要だから……。
病室で、おーちゃんを見つめるお姉ちゃんの横顔を思い出す。
脳裏にその光景を浮かび上がらせながら、グツグツと音を立てて蒸気を出し始めたお鍋をボーッと見つめていると、隣から手が伸びてきて、ピッと火が止められた。
「……愛花」
そのまま、わたしの体をそっと壁へと寄せる。
「俺、……明日も休みとったから、病院に行ってくるよ」
おーちゃんの真っ直ぐな眼差しが、わたしへと注がれた。