ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
「もっとちゃんと、結花と話してくる。……この1年間のこととか、色々」
……色々……。
その中には、きっと、おーちゃんのわたしに対する気持ちのことも、含まれている。
「だから、……大丈夫だよ。住んでる場所の距離とか、関係ないから」
おーちゃんの言葉に、わたしは、ツンとした鼻の痛みを感じた。
前のわたしだったら、……きっと、嬉しくて仕方がなかった。
今すぐおーちゃんに抱きついて、大好き、って、言いたい……。
お姉ちゃんの気持ちを知る前だったら……そう、言えたのに……。
わたしは、わさびを食べたときのような痛みをなんとかやり過ごして、おーちゃんの体を、力なく押し返した。
「……わたし、今日ね、ご飯食べたら、家に帰るつもりだった……」
おーちゃんの顔を見ずに、わたしは続けた。
「だって、そういう約束だったから。……お姉ちゃんが起きたことを、お父さんとお母さんにも報告したいし、……おーちゃんが、お姉ちゃんが戻ってくるまで、って」
声が震えそうになるのを、必死にこらえる。
耳に返ってくる自分の言葉が、わたしの胸をズキズキと痛めた。
「愛想をつかしただけなら、それでもいいから、って……。おーちゃんが、言ったんだよ」