ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
その表紙には、見覚えがあった。
以前に、愛花が家から持ち出したものだ。
「……今日、愛花も来たのか? あいつ、学校だろ?」
「うん。会ってはなくて……朝、この荷物だけ届けに来てくれたのを、看護師さんが持って来てくれたの。わたしが退屈しないようにって」
結花はそう言って、机の上に置かれた小さな紙袋と、数冊の本を指した。
「学校に行く前に、わざわざ?」
「そう。優しい妹でしょ」
結花の言葉に、俺はそうだな、と頷いた。
けれどその裏で、放課後に俺に鉢合わせることを避けるためにあえてそうしたのだろうか——という考えがよぎる。
「……あいつ、お前の帰りを、ずっと待ってたから」
「……うん……」
結花は少し照れたように視線を外し、窓の方を見た。
「……わたしまで、愛花に辛い思いをさせちゃったな」