ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
結花は唇を噛みしめると、とうとう紙袋へと手を伸ばした。
それを抱えるようにして胸に抱くと、こちらを真っ直ぐに見た。
「——好き」
ひとこと声にして、
「……って、言うつもりだった。……だって、大変なときに、たくさん力になってくれて、親切にしてくれて……わたしがおーちゃんを好きになるのなんて、自然なことでしょ?」
結花は、苦笑をもらした。
「だけど、三人でいる時間があまりにも大切すぎて……自分の気持ちを伝えるのは、怖かった。おーちゃんの気持ちがわからなかったから、下手なことして、わたしたちの時間を崩したくなかったの」
ポツリ、ポツリと話し出す結花の声には、どこか懐かしむような雰囲気が含まれていた。
「だけど……、愛花にとっても、おーちゃんの存在が大きくなるのだって、自然なことだから。わたし、大人気ないけど、……取られたくなかった。いつか崩れるなら、おーちゃんとの関係を先に変えるのは、……わたしがよかったの。……それなのに——」
結花の腕に力が込められたのか、紙袋の音が、静かな病室に響いた。
「愛花は、……これを、わたしに持ってきてくれた」