ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
20.ふたりぐらし
「ええっ!? じゃあ、お姉ちゃんとおーちゃんの恋のキューピットになるような真似してきちゃったってわけ?」
「……美月。言い方、なんか古臭い……」
「信じられない……。おーちゃんといい感じになった、って聞いたと思ったら、最近元気ないから、何かあったなとは思ってたけど……」
「その話は、もういいって。それよりも、この後——」
「康晴、どう思う?」
美月は拳をマイクのようにして、康晴へと傾けた。
「……美月、お前なあ。デリカシーって言葉、知ってる?」
「質問に質問で返さないでよ」
「……。まあ、もし俺があの人の立場だったら、ついこの間まで好き好きって言ってきてたくせに、一方的にサヨナラされて、逃げられて、……たまったもんじゃないな」
「……もう、その話はいいってば……」
わたしは耳の痛い言葉から逃れるように、机の上に顔を埋めた。
放課後、美月をご飯に誘っただけのはずが、いつの間にかおーちゃんとの間にあったことを聞き出されていて、挙句、気づけば康晴まで話の輪に加わっていた。
「夜ご飯、食べに行こうよ……」