ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-

——どのくらいそうしていたか、いつの間にかおーちゃんが使っていた洗面台の水音は聞こえなくなっていて、静かな中、わたしはぱちりと目を開けた。


「……そうだ。わたしね、2年生になったよ。去年見せたときはぶかぶかだったブレザー、ちょっとは着こなせるようになったと思うんだけど」


ほら見て、と、ブレザーの袖を引っ張って見せる。

けれどお姉ちゃんのまぶたは開かない。


「……早く、帰ってきて。おーちゃんと待ってるよ」


掠れた声でそう言うと、頭に何かが乗っかった。
……おーちゃんの手だ。


「7年分の疲れを癒してるんだろ。その内起きるって」

「……うん」


小さく頷いたわたしの視界の端に、机の上に置かれている新しいお花が映った。

黄色やオレンジなどの明るくて優しい色合いのそれは、お姉ちゃんのイメージにぴったりだ。


「愛花のことは俺に任せて、気にせず休めよ」


おーちゃんの優しい声に、耳が心地よくなる。

わたしが握るお姉ちゃんの手を、わたしの手ごとそっと撫でてくれる手つきがとても丁寧で、じわりと目頭が熱くなった。
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