ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
「……わたし、今まで自分のことばっかりで……お姉ちゃんのこと、全然考えられてなくて、……だから……」
「……バカ」
お姉ちゃんはわたしの手を取ると、くいっ、と引っ張った。
踏み込んだわたしを、すっぽりと包み込む。
「今までもずっと、充分、いい子すぎるくらいだったよ。……わたしは、もっと、愛花にワガママを言って欲しかった。お父さんとお母さんに甘えられなかった分、……わたしが、その代わりになってあげたかった」
「……お姉ちゃん……」
「愛花はそれを、わたしがお姉ちゃんだから、我慢してるって思ってるのかもしれないけど……。違うよ。お姉ちゃんだから、……妹の愛花が可愛くて、大事でしょうがないから、好きでそうしてるんだよ」
お姉ちゃんの左手が、わたしの髪を梳かすように、優しく撫でてくれる。
熱を帯びた瞳を、堪えるようにそっと閉じた。
「……それに……。おーちゃんは、ぬいぐるみじゃないんだから」
お姉ちゃんが、眉尻を下げて、困ったように笑った。
「おーちゃんの気持ちを、考えてあげなきゃ」