ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
「……だって……」
「でも、……ありがとう。わたしを想ってくれる愛花の気持ちは、すごく嬉しかった」
「……お姉ちゃんは、……大丈夫なの?」
どう聞いていいかわらかずに、結局、月並みな言葉しか出てこなかった。
「……うん、大丈夫だよ。……おーちゃんのことを好きな気持ちと同じくらい、……ううん。それ以上に、わたしはおーちゃんの傍で笑ってる愛花を見てるのが、好きみたい」
「おーちゃんには内緒だよ」と、口元に人差し指に手を当てるお姉ちゃん。
「……ありがとう」
わたしは、お姉ちゃんの首元に、ぎゅっと腕を巻きつけた。
「……わたしも、おーちゃんに内緒にして欲しいんだけど」
声を潜めて、お姉ちゃんに囁くように告げた。
「本当は、おーちゃんと一緒にいたいって思う気持ちと同じくらい、……お姉ちゃんと離れて暮らすの、寂しいよ」
「……そんなの、わたしもだよ。……でも、わたしも、すぐに元の生活に戻れるわけじゃないし、……おーちゃんがどうしてもって言うから」
「……そんなに?」
「うん。愛花と離れるなんて気が気じゃないって感じ」
「……」
おーちゃんてば、昨日は、距離とか関係ないって言ってたくせに……。
嬉しい気持ちが、うずうずと巻き起こる。
「あ、これも内緒だよ」
すっかり内緒ごとが増えてしまって、わたしたちは、お互いに顔を見合わせて笑った。
ベッドの隅に腰に下ろして、甘えるように、お姉ちゃんの胸へ頬を寄せる。
お姉ちゃんがわたしの背中を抱くと、まるで小さい子にするように、優しく摩ってくれた。
おーちゃんが戻ってくる足音を聞きつけるまで、……わたしたちはしばらく、そうして抱き合っていた。