ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
「でも、大人な男の人〜って感じで、かっこよかったね」
「う、うん」
「花束なんか持っちゃってさ。王子様みたい」
あれは、お姉ちゃんのお見舞い用なんだけど……。
「それになんていうか……あの人も、愛花のことがすごく大切なんだなって伝わってきたもん」
「……そうなの?」
「わたしの女の勘」
顎に手を当てて、得意げに言う美月。
顔が熱くなってきたわたしは、気を紛らわせるようにストローに口つけた。
頬を冷やすようにパタパタと手であおいでいると、
「けどあの人、……お兄さん、なんだよね?」
核心を突かれて、わたしはピシリと固まった。
答え方を少し迷って、目を泳がせる。
「……えっと、あれはおーちゃんの嘘なの」
「嘘?」
「うん。でも、わたしが妹みたいな存在なのは、本当で……。説明すると少し長くなっちゃうけど、聞いてくれる?」
ソワソワと落ち着かない様子で伺うと、美月はコクリと頷いた。