ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
01.お隣さん
ピンポーン。
コンビニのお弁当を食べ終えて、お風呂から上がってすっきりしたところで、玄関チャイムの音が鳴り響いた。
……帰ってきたっ。
まだ水が滴る髪をそのままに、タオルを引っ掴む。
適当に体を拭き、脱衣所に転がっていたTシャツを頭から被ると、わたしは廊下を駆けた。
鍵を開けようとしたところで、はたと立ち止まる。
何やらドアの向こうが騒がしい。
「あの、樫葉くん、一人暮らしでしょ? チャイムじゃなくて、鍵を——」
若い女の人の声。
「んや、だいじょーぶなんで……」
続いて、聞き慣れた声。
けれど呂律の回っていない、普段よりもだらしないそれに、わたしは瞬時に状況を把握した。
「なにが大丈夫なの、もー。ほら、鞄貸して」
「んー」
聞こえてくる会話に苛立って、ためらうことなくドアを開ける。