ふたりぐらし -マトリカリア 305号室-
——パシンッ。
乾いた音が、マンションの廊下に響いた。
あまりの迫力に思わず口に手を当てる。
おーちゃんの頬に見事な平手打ちを食らわせた彼女は、持っていた男物の鞄をわたしに押し付けた。
そしてもう一度、ものすごい剣幕でおーちゃんに向き直り、吐き捨てるように言った。
「最っ低!」
ふん、と背を向けて、ふわふわな栗色の髪をなびかせながら、キレイな女の人はさっさと帰ってしまった。
その逞しい後ろ姿に呆気にとられていると、
「……いてえ」
赤くなったほっぺに手を当てているおーちゃんが、弱々しく呟いた。
——この、酔っ払いめ……。