転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~
『おまえは、剣を持とうと思わなかったのか?』


 寡黙で、誰に対しても必要以上にかかわろうとしないハルトにしては、珍しい問いかけだ。

 彼が道場の門下生になってしばらく経つが、こんなふうに踏み込んだ話を振られるのは初めてのことだった。

 ユノはうれしくなって、自然と笑みを浮かべながら答える。


『もちろん、最初は私も、いつかお父さんみたいな騎士になりたいと思ってたよ。だけど私には、剣の才能はなかったから……』


 ユノの父は昔、王宮で働く騎士だった。ユノが産まれてすぐの頃足のケガで引退を余儀なくされたものの、こうして道場を開き子どもたちに剣を教えられるほどには、その技術と豪胆ぶりは健在である。

 そんな父に憧れ、ユノも一時は剣の道に進もうとした。けれども早々に、自分の夢は身の丈に合わない幻想だと悟ってしまったのだ。


『私、ものすごーく鈍臭いんだ。道場のみんなみたいに、素早く動けないの。女の私は身軽さを武器にしなきゃいけないのに、これじゃあ強くなれない』


 苦く笑いながら、薬箱の蓋を閉じる。
 ハルトは表情を変えず、ただ無言で、じっとユノの言葉に耳を傾けていた。

 けれども薬箱を持ったユノが立ち上がりかけたところで、ふと口を開く。
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