転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~
 ふたりの住まいである部屋の前にたどり着いた。カードキーをかざすために腰に回された手は外れたが、未だ右手は掴まれたままだ。

 平時より少しだけもたつきながら、ロックが解かれる。
 そうしてふたりの身体がドアの内側に入った瞬間、再び結乃の唇は春人によって奪われていた。

 驚きも戸惑いも不服も、すべてが彼の口内に吸い込まれてしまう。またもや腰に添えられた手がグイグイと誘導し、口づけを交わしたまま家の中へと結乃を引き入れようとした。感知式の電灯がともるが、上手く足もとが見えなくて少しこわい。

 ゆっくり靴を脱ぐ暇も与えられないらしい。たたらを踏みながら、なんとかパンプスを脱いで春人とともに玄関を上がったが、片方は廊下に転がってしまった……と思う。

 ドサ、と音をたてて、今度こそ肩からショルダーバッグが滑り落ちる。一体どんな技を使ったのか、いつの間にか右手首から離れていた春人の手のひらが巧みに動き、結乃が羽織っていたデニムジャケットを床に落とした。


(ど、どんな魔法……?!)


 深いキスの合間になんとか息継ぎをしながら、想像を超える手腕にアワアワしっぱなしだ。ゼロ距離を保ったまま、春人と結乃はもつれるように廊下を進む。

 背後でガチャ、と音がしたと思ったら、ドアが開いて室内に押し込められた。
 ここはふたりの寝室だ。思い至るも結乃の足は、なすすべなく覚束ない歩みを進める。

 そしてとうとう膝裏がベッドにぶつかって、勢いのまま背中から後ろに倒れ込んだ。

 ベッドボードの常夜灯がつけられ、明るさは強くないとはいえ一瞬目がくらむ。
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