転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~
「つまり、まとめると……俺は、きみの身体を大切にしたい。いつか俺との子を産んで欲しいとは思うが、今すぐじゃなくていい。しばらくはふたりで暮らす生活を楽しむのも、悪くないんじゃないかと……結乃?」


 そこまで言って、春人が首をかしげた。

 結乃はこみ上がる笑みを隠しきれないまま、不思議そうな顔で自分を見つめる春人にそっと両手を伸ばす。


「うん……うん。わかりました」


 そうして結乃が、うれしそうに微笑みながらふわりと彼の頬を包んで撫でる。


「大事にしてくれて、ありがとう」


 彼女の言葉に息を呑んで、それから春人は何かを堪えるように顔をしかめた。

 両頬を挟む結乃の手を好きにさせたまま、その顔が近づいてくる。落ちてきた唇を躊躇いなく目を閉じて受け止めると、結乃は自分から薄く口を開き熱い舌を招き入れた。


「……結乃」


 ──ああ、と思う。
 濃密なキスのあとで愛おしげにささやく春人の表情を見て、結乃の胸はどうしようもなく甘く痺れた。

 経験が浅く狼狽えてばかりの自分をいとも簡単に乱してしまう春人は、いつだって余裕そうで。彼も、もっと……自分のように、いっぱいいっぱいになればいいと思っていた。
 だけどきっと、結乃が考えている以上に、春人の方も余裕なんてなくて。
 それを泣きたいくらい、うれしく思うのだ。


「結乃を、俺のものにさせてくれ」


 興奮しているのか、天井を背にこちらを見下ろす春人は僅かに目もとが赤く、熱のこもった切実な声をしている。
 その傲慢な願いを聞いて、結乃は花が咲くように笑った。


「そんなの──私はとっくに、春人さんのものですよ」


 一瞬驚いた顔をした彼が、切れ長の目を眇めて唸るようにつぶやく。
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