転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~
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「……あーあ、こんな戦早く終わんねぇかなぁ」
風に乗って届いてきたその声に、ハルトは石造りの階段を上る足を一瞬止める。
声の主は、この先の見張り台にいるのだろう。彼が再び足を動かし始めると、予想した通りふたり組の男の後ろ姿が徐々に見えてきた。
男たちが着ている濃紺の制服は、平時ならば街の治安維持を主として活動する警備隊のものだ。有事の際は王宮で有する騎士や兵士の他に、彼らのような警備隊も貴重な戦力として前線に駆り出されるのは一般的である。
ハルトが石段を上るにつれ、見張りに立つ男たちの声はハッキリと聞こえてきた。
「おいそれ、上官や騎士さま方に聞かれたら怒られるぞ」
「いやだってな、聞いてくれよ……俺、もうすぐ彼女に求婚するつもりだったのにさ、今回いきなり戦に駆り出されてその予定もパァだよ! さすがに戦場行く前に『戦から帰ってきたら結婚してくれ』とは、嫌な予感しすぎて言えなかったわ……」
こちらからは後ろ姿しか見えていないが、声や話している内容からまだ年若い青年たちだとわかる。現在28歳であるハルトよりも、おそらく年下だろう。
嘆く赤毛の男の肩を、隣に立つ明るい茶髪の男が慰めるように片手で叩いた。
「まあ、きっともうすぐ終わるはずだ。殿下のおそろしく強い近衛騎士さま方が、交戦のたび相手を圧倒してきてるからな」
「ああ……それぞれ少なくともひとりで一個中隊くらいの戦力はあるよな」
「正直、同じ人間とは思えねぇわ。ホラ、だからおまえも元気出して『この戦が終わったら故郷の恋人に求婚するんだ!』って今から周りに言いふらしとけ」
「なんかそれも、嫌な予感しかしねぇよな……」