転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~
ウィズラント王国西部の砂漠地帯の果てにあるこの砦は、隣国との戦の拠点だ。
眼下に広がる殺伐とした土色の景色を眺めながら、はからずも先ほど聞いてしまった警備隊の男たちの会話のことを考える。
『俺、もうすぐ彼女に求婚するつもりだったのに──』
そうして思い浮かんだのは、城を離れる数日前の夜、中庭で偶然顔を合わせた幼なじみ──ユノの顔だ。
あれからすでにふた月ほどが経っている。今も身につけているあの夜彼女からもらった緑色の髪紐へ、そっと指先で触れた。
出会ったのは、まだ12歳の少年だった頃。
それから28歳のこの歳まで、彼女はずっと自分の身近な存在で居続けている。
王城内での彼女は、なぜかどことなくよそよそしい素振りを見せるのだが……それでも他に人の目がなければ、昔のような気安い態度で接してくれた。
周りがよく話題にするような恋とか愛だとかに興味を持てないハルトにとって、ユノは1番──というより、唯一親しいと言える異性。言葉や行動には表さなくとも、自分の中のユノはその他大勢の女性とは違う位置にいることに、ちゃんと気づいていた。
その優しい心根を何者にも損なわれることなく、ただ健やかに、笑顔でのびのびと日々を過ごして欲しい。
彼女の平穏を守るためなら、きっと自分はどんなことでもできるだろう。
戦に駆り出されて間もなくのこと。夕食の席で近衛騎士仲間の数少ない友人に今まで使っていたのとは違う髪紐を指摘され、当時強くもない酒を飲まされていたこともあってか、平時ではありえない言葉数で幼なじみの女性に関する話を見た目には平時通りの無表情でつらつらと語ったハルトに、友人は若干引き気味の様子でこう答えた。
『おまえそれ……もはや恋とかかわいい域通り越して、溺愛してんじゃねぇか。ただの幼なじみに向けるにしては矢印がデカくて重すぎだろ』
言われて初めて、そうかと思った。
そうか。自分のこの気持ちが、愛というものなのか。
ずっと特別だった。城内で会った際の他人行儀な態度に苛ついた。中庭でのあの夜、勝手に身体が動いて抱き寄せていた。
すべては、自分が彼女に向ける恋慕からくるものだったのか。
眼下に広がる殺伐とした土色の景色を眺めながら、はからずも先ほど聞いてしまった警備隊の男たちの会話のことを考える。
『俺、もうすぐ彼女に求婚するつもりだったのに──』
そうして思い浮かんだのは、城を離れる数日前の夜、中庭で偶然顔を合わせた幼なじみ──ユノの顔だ。
あれからすでにふた月ほどが経っている。今も身につけているあの夜彼女からもらった緑色の髪紐へ、そっと指先で触れた。
出会ったのは、まだ12歳の少年だった頃。
それから28歳のこの歳まで、彼女はずっと自分の身近な存在で居続けている。
王城内での彼女は、なぜかどことなくよそよそしい素振りを見せるのだが……それでも他に人の目がなければ、昔のような気安い態度で接してくれた。
周りがよく話題にするような恋とか愛だとかに興味を持てないハルトにとって、ユノは1番──というより、唯一親しいと言える異性。言葉や行動には表さなくとも、自分の中のユノはその他大勢の女性とは違う位置にいることに、ちゃんと気づいていた。
その優しい心根を何者にも損なわれることなく、ただ健やかに、笑顔でのびのびと日々を過ごして欲しい。
彼女の平穏を守るためなら、きっと自分はどんなことでもできるだろう。
戦に駆り出されて間もなくのこと。夕食の席で近衛騎士仲間の数少ない友人に今まで使っていたのとは違う髪紐を指摘され、当時強くもない酒を飲まされていたこともあってか、平時ではありえない言葉数で幼なじみの女性に関する話を見た目には平時通りの無表情でつらつらと語ったハルトに、友人は若干引き気味の様子でこう答えた。
『おまえそれ……もはや恋とかかわいい域通り越して、溺愛してんじゃねぇか。ただの幼なじみに向けるにしては矢印がデカくて重すぎだろ』
言われて初めて、そうかと思った。
そうか。自分のこの気持ちが、愛というものなのか。
ずっと特別だった。城内で会った際の他人行儀な態度に苛ついた。中庭でのあの夜、勝手に身体が動いて抱き寄せていた。
すべては、自分が彼女に向ける恋慕からくるものだったのか。