転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~
ふと意識が浮上して、まぶたを開ける。カーテンの隙間から射し込む朝の光が、室内をぼんやりと明るく照らしていた。
そんななか春人の目にまず映ったのは、自分の腕の中で眠る最愛の女性の姿だ。
呼吸に合わせ、長いまつ毛が揺れている。しっかり者の彼女もこうしてまぶたを閉じているといつもより少しあどけなく見えて、自然と頬が緩んだ。
胸もとにいるぬくもりを抱きしめてさらに引き寄せた彼は、彼女の香りを堪能するようにやわらかな髪へと鼻先を埋める。
夢をみたのは久々だった。だけどそれがどんなものだったか、目覚めた瞬間に霧散してしまってもう思い出せない。
それでも心臓の鼓動が妙に速いのは、忘れてしまったその夢が良くないものだったからなのだろうか。
結乃とともに暮らし始めてから、一時期頻繁だったあの謎の夢はパタリとみなくなっていた。もしかすると今朝みたのもあれと似たものだったのかもしれないが、思考を巡らせたところで覚えていないのだから確かめようもない。
「んー……んむぅ」
そんなふうにぼんやりしていたら、彼女を抱き寄せる手の力が無意識に強くなっていたようだ。
腕の中からむずがるようなくぐもった声が聞こえ、ハッとして力を抜いた。
目をつぶったまま眉間にシワを寄せた結乃が、ぐりぐりと春人の胸にひたいを擦りつける。
かと思ったら、不意にパチリとまぶたが開いた。
「………」
「おはよう、結乃」
そのまましばし放心していた結乃に、こちらから声をかけてみる。
彼女は春人の声にピクッと反応を見せると、おそるおそるといった様子で視線を上げた。
「あ……お、おはよう、ございます……」
消え入りそうな小さな声でつぶやきながら、結乃の顔が見る間に赤く染まっていく。
狙ってやっているのではないのだろうが、羞恥に満ちたその表情も甘いタレ目の上目遣いも、見事に春人の欲をうずかせた。
衝動のあまり逆に表情が消えた彼の脳内で、バチン!とスイッチの入る音が盛大に響く。