転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~
「……の、結乃!」
自分を呼ぶ声と身体を揺すられる感覚にハッとして、目を覚ました。
何度かまばたきを繰り返し、深く息を吐き出す。結乃に覆い被さる形で顔を覗き込んでいた春人も、安心したようにため息をこぼした。
「うなされてた。大丈夫か?」
そう言って春人は、結乃が横たわっていたソファーの前にひざをつく。
(夢……私、寝ちゃってたんだ)
知らずうち浮かんでいた涙で視界がにじみ、春人の顔がぼやけていた。
結乃は目もとを指先で拭うと、身体を起こして床に足を下ろす。
「ありがとうございます……お仕事、終わった?」
「ああ。すまない、放ったらかしにして」
春人がかすかに眉間にシワを寄せ、大きな手のひらで結乃の頬を撫でた。
表情の僅かな変化で彼が本当に申し訳なく思っているのがわかり、ソファーに座る結乃は思わず顔をほころばせる。
「春人さんが謝ることないですよ。でも、忙しすぎて身体を壊さないかだけは心配です」
今朝は春人が結乃のためにパンケーキを作ったが、昼は結乃が腕をふるい、ボロネーゼとスープを用意した。
それらを食べ終えひと息ついたのち、春人は「少し仕事を片づける」と書斎にこもっていたのだ。
壁の時計を確認してみると、現在時刻は15時前。彼がリビングを出て、1時間ほどが経っている。