転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~

「……の、結乃!」


 自分を呼ぶ声と身体を揺すられる感覚にハッとして、目を覚ました。

 何度かまばたきを繰り返し、深く息を吐き出す。結乃に覆い被さる形で顔を覗き込んでいた春人も、安心したようにため息をこぼした。


「うなされてた。大丈夫か?」


 そう言って春人は、結乃が横たわっていたソファーの前にひざをつく。


(夢……私、寝ちゃってたんだ)


 知らずうち浮かんでいた涙で視界がにじみ、春人の顔がぼやけていた。

 結乃は目もとを指先で拭うと、身体を起こして床に足を下ろす。


「ありがとうございます……お仕事、終わった?」
「ああ。すまない、放ったらかしにして」


 春人がかすかに眉間にシワを寄せ、大きな手のひらで結乃の頬を撫でた。

 表情の僅かな変化で彼が本当に申し訳なく思っているのがわかり、ソファーに座る結乃は思わず顔をほころばせる。


「春人さんが謝ることないですよ。でも、忙しすぎて身体を壊さないかだけは心配です」


 今朝は春人が結乃のためにパンケーキを作ったが、昼は結乃が腕をふるい、ボロネーゼとスープを用意した。

 それらを食べ終えひと息ついたのち、春人は「少し仕事を片づける」と書斎にこもっていたのだ。

 壁の時計を確認してみると、現在時刻は15時前。彼がリビングを出て、1時間ほどが経っている。
< 124 / 195 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop