転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~
 髪や瞳の色は違えど、嫌味なほど美麗な顔立ちは変わらない。
 ハルトヴィン・ラノワール。これが、前世で彼女と幼なじみだった男の名前だ。

 彼は騎士の中でもひと握りのエリートしかなれない近衛騎士団に所属し、その美貌も相まってか王宮内では男女ともから一目置かれる存在だった。
 最後に会ったのは……そう、互いに役割は違えど隣国との戦に駆り出されることとなり、それぞれが戦地へと赴く直前、王宮敷地内の庭園でバッタリ会ったあの夜。
 それなりに覚悟はしていたとはいえ、あれが彼と顔を合わせた最期となってしまった。

 今世での彼の名は、黒須春人というらしい。先ほどの失態はなんとか誤魔化したつもりだが、きっと結乃のことを変な女だと認定したはずだ。
 おそらく春人には、自分のように前世の記憶なんてものはないだろう。さて、これからどうすべきか……。

 あとは若いおふたりで、なんてお決まりのセリフを放って叔母たちはいそいそと姿を消したため、ふたりは現在1対1で向かい合っている状況である。
 顔には出さずとも猛烈に頭を悩ませながら結乃がカップをソーサーに置いたそのとき、思いがけなく声を上げたのは春人の方だった。


「すまない。俺は社交的な性格ではなくて、今もこういう場ではどんなことを話せばいいのか、考えてはみたがまったくわからない。何か俺に聞きたいことなどがあれば、遠慮なく言ってくれ」
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