転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~
 わざとらしく芝居がかった調子で、仁が言った。

 とうとう折れた春人が、舌打ちしてソファーから立ち上がる。


「……鍵」
「はいよ」


 待ってましたとばかりに仁が車のキーを投げて寄越す。

 危なげなくそれをキャッチすると、春人は仁にジロリとキツい一瞥を送った。


「もし結乃に変なことしてみろ。あらゆる意味で、全力で消す」
「はいはい。行ってらっしゃい」


 物騒な脅しを受けているというのに気にした様子もなく、仁は片手を振って春人を送り出す。

 そうして玄関のドアが閉まる音を確実に聞いてから、それまで呆然と成り行きを見守っていた結乃にニッコリ笑みを向けた。


「いやぁ、あの超絶無愛想男がここまでわかりやすい反応を見せてくれるとは、想像以上におもしろい。愛されてるなぁ、結乃嬢」
「……えっと」


 なんと返したらいいのかわからなくて、つい視線を落とし言い淀む。

 だけどすぐに意を決し、再び顔を上げて仁を見つめた。


「……お久しぶりです、ブルースト殿。私のこと、覚えておいでだったのですね」


 戸惑い混じりの、けれども凛とした声音で告げた結乃を見下ろし、仁が懐かしそうに目を細める。


「ああ、その名で呼ばれるのはどれほどぶりなんだろうなぁ。聞いた名前と顔写真で、まさかとは思っていたが……やはり貴女も記憶持ちだったのか、ブランシュ嬢」


 彼のセリフに、結乃は困ったような笑みを浮かべた。


「はい。まさか、こうしてまたお会いしてあの頃の話ができるとは思いませんでした」
「俺もだ。まあ、会うだけならほぼ毎日顔を合わせているヤツがいるがな」


 仁がそう言って肩をすくめ、先ほど春人が出て行ったリビングのドアへ視線を向ける。
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