転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~
「貴女と会っても、ラノワールは──ハルは、思い出さなかったんだな」
「……ええ。あの、ブルースト殿は春人さんと大学で初めて会ったんですよね?」
「ああ。俺が前世のことを思い出したのは、そのときだ」
「そうなんですね……」


 つぶやく結乃は、未だにどこか現実味のなさそうなぼうっとした表情だ。

 そんな彼女へ、仁がイタズラっぽく笑ってみせる。


「あのお綺麗な顔を見た瞬間前世の記憶が一気に頭に流れ込んできて、かなり混乱した。あれからもう10年以上経つってのに当の本人は何も知らないままなんだから、のん気なものだよな」


 おどけた言い草に、つい結乃もつられて頬を緩めた。

 今度は仁が「貴女もアイツを見て?」と訊ね、結乃は小さく首を横に振る。


「いえ。もっとずっと前……子どもの、頃からです」
「へぇ。それもまた、いろいろと難儀だったろうなあ」
「いえ……」


 答えながら、結乃は迷っていた。

 “これ”を、彼に訊ねてもいいのか。互いのために、やめておくべきなのか。

 けれどもどうしても気になって、躊躇いがちにまた口を開く。


「ブルースト殿に……教えていただきたいことが、あるんです」
「うん? 俺にわかることだったら」


 快く答えてくれた彼を、一度コクリと唾を飲み込んでからまっすぐに見つめた。


「ハルトの──最期に、ついてです」


 予想外の問いかけだったのか、仁が僅かに目を見開く。

 そうしてふと、吐息をこぼすように口もとを緩めた。
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