転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~
 言葉を失う。

 ……まさか。
 そんなはずはない。だって、そんな素振りは、一度も──。

 考えて、はたと思い出したのは、戦争に招集された自分たちが互いの無事を祈り合った夜のこと。
 一瞬呼吸も止まってしまうくらい、強く、抱きしめられた。

 まさか、あの抱擁には……幼なじみ以上の感情が、あった?


「う……そ、そんな……」
「嘘なんかじゃない。貴女を失ってからのラノワールは空っぽで、食事も睡眠もろくにとらなくなった。戦場の真っ只中だというのに、危うくて仕方なかったよ」


 そこで言葉を区切った仁は、まっすぐに結乃を射抜きながら続ける。


「だから、俺は言ったんだ。……『おまえの大事なものを奪った隣国を許すな。この戦争に勝つことこそが、幼なじみへの1番の弔いになる』ってな」
「な──」
「それからのラノワールはすごかったよ。感情も生きる気力も失いながら猛然と目の前の敵を斬り殺す様は、まるで殺戮のために作られた人形のようだった。敵の大将の首をとったのも、アイツだ」


 自分の知らない、衝撃的な過去の話に、頭が追いつかない。

 呆然と押し黙る結乃を前にして、不意に仁が苦く笑った。


「本当なら、もういない人間の恋情をバラすなんて野暮なんだろうな。まあ、これは特殊なケースだ」
「……いない、って……」


 ハルトは──春人は、ここにいる。

 なのにどうしてそんなふうに言うのだろうと、結乃は無意識に非難の目をしていた。
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