転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~
 このふたり、傍から見ていれば互いを特別に想っていることは明白なのに、どこか噛み合っていないような気がする。

 事前に春人から聞いていた話では、“こちらが強引に押し進めた結婚だから、妻は自分を好いているわけではない”ということだった。

 ところがどうだ。実際会ってみれば、妻の方も満更ではない……むしろかなり、好感度は高いのではないか?

 そして妻は妻で、夫が自分に注いでいる感情の大きさを正しく理解していないらしい。春人が言葉足らずなだけか、彼女の鈍さもあるのか……。


(でもまあ、これは()の記憶がある分いろいろ余計なこと考えて、奥方のが拗らせてるな。“こっちの方”にも特別に愛されてるってこと、まるでわかってなさそうだ)


 互いに向いている矢印に気がつかず、自分が持っているのはひとりよがりな気持ちだと決めつけている。

 一度それぞれの胸の内をすべてさらけ出してしまえば解決するのではと思うのだが、あえて仁はこれ以上ツッコむことをやめた。
 ここで自分が出しゃばるのは簡単だが、それこそ野暮と言うものだろう。

 世にも珍しい転生夫婦の行方を、つかず離れずのこのポジションで見守るのも楽しそうだし。


「あー、まあ、何はともあれ。あそこに転がってる俺からのプレゼントは、今後ぜひ有効活用してやってくれな!」


 というわけで、仁はニカッと笑顔を浮かべながら雑に話をまとめた。

 そうして春人と結乃が何らかの返事をする前に、ふと思い出したことをまた口にする。


「そういえばきみら、式を挙げないんだって? なんでだよ、社員たちにも取引先にも派手にお披露目すりゃいいのに」


 脈絡のない唐突なその問いを聞いて、ソファーに座る結乃と立ったままの春人がどちらともなく顔を見合わせた。
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