転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~
 ついその名を呼んだ直後に一瞬訝しげな顔をした以外、会ってからずっと表情を変えない春人が淡々と述べる。

 結乃は彼の言葉を聞いてパチパチとまばたきを繰り返すと、不意に顔をほころばせた。

 その変化を見た春人が目を丸くしたが、構わず結乃は口を開く。


「謝ることはないです。私も今は、これからどうしようって悩んでましたから」


 この場を去る前、淑やかな見た目に反して賑やかな春人の母親が、彼の経歴や性格などをひと通り紹介していってくれた。

 年齢は33歳。某名門国立大学在学中に友人とIT関連事業を立ち上げ、今では一部上場企業にまで成長したその会社の副社長であること。
 この通り見た目は悪くないのだが多少口下手なところがある息子の婚活事情を心配した結果、元々知人だった美智代と今回の縁談を思いつき、半ば強引に春人を説き伏せてこの場へ連れてきたこと、などなど……。

 春人の母親の話と、それから先ほどの本人の話しぶりでわかった。どうやら外見だけじゃなく中身も、彼は前世のままのようだ。

 寡黙で、口下手で、表情が乏しくて。わかりにくいところはあるけれど、決して嘘はつかない。
 ピンと伸びた背筋もまっすぐな眼差しも、あの頃のままだ。

 それがどうしようもなく安心して、うれしかった。
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