転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~
「まあ……別にやらなくてもいいと、結乃が言っていたし」
「もともと私、結婚式への強いこだわりはなかったんです。それに実際に結婚式を挙げた友達からいろいろ大変な体験談を聞いてきたので、なんだか気後れしちゃって。春人さんも忙しくて、お休みをもらうのも大変そうですし……」


 ウェディングフォトくらいはそのうち撮って家族に見せるつもりではいるんですけど、と続けた結乃へ、仁が若干呆れ顔をする。


「ウチの福利厚生をナメてもらっては困る。式の当日はもちろん、準備に必要な休みもハネムーン休暇も、ちゃんと取得させられるぞ」
「はあ……」
「というか、おまえもおまえだ。一生に一度、大事な嫁が選んだ式場で好きなドレスや着物を着てもらって世界一幸せな瞬間を演出してやるくらいの気概を見せろよ」
「……そうか」


 矛先を向けられた春人がひとことつぶやいて、考え込み始めた。

 無言で、うつむきがちに顎先へ片手をやっている。無表情なのでパッと見は何やら重要な問題について思案しているように見えるが、あれは絶対自分の嫁のドレスや白無垢姿を想像しているだけだな……と付き合いの長い仁は察している。


「結乃。式についてはまた改めて、話し合おう」
「あ……はい」


 熟考のポーズを解いた春人に言われた結乃が、コクリと素直にうなずく。

 そんなふたりの姿を眺めながら、仁は心から昔なじみたちの幸せを祈っていた。


「──は、春人さん、これは……」
「………」


 ちなみに、仁を見送ったのち中身を検めてみた結婚祝いの正体は、表裏にそれぞれ【Yes】と【No】がでかでかと書かれた例のクッションで。

 赤面してしどろもどろな結乃と、そんな彼女の反応にまた嗜虐心を煽られソワソワしてしまった春人による厳正な話し合いが行われた結果、下世話なそのブツはとりあえずクローゼットにしまわれることとなったのだった。
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