転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~
「どれにしようかなあ……」
美しくてかわいらしい色とりどりの花たちを前にして、結乃は自然と顔をほころばせる。
仕事帰りの夕方。こうして自宅マンションの最寄り駅近くにある花屋へたまに寄るのが、結乃のささやかな楽しみだ。
前回購入したのは鮮やかな色の花ばかりだったから、今回はパステルカラーの花にしよう。そう思いながらいくつか切り花を選んで購入し、弾んだ気持ちで店を出た。
(春人さんも、気に入ってくれるかな)
買った花は花瓶に生けて、いつもダイニングテーブルに飾っている。花があると、パッと部屋の中が明るくなる気がするのだ。
夏と呼ぶにはまだ少し早く、春と呼ぶには日差しが強くなってきた5月下旬。夫である春人と暮らし始めてから約2ヶ月が経ち、自宅マンションへと向かうこの道を歩くのもすっかり慣れた。
片手には店員によって英字新聞で包まれた花を持ち、帰路を急ぐ。すると前方に、何やら揉めている男女3人の姿を見つけた。
「別に難しいコトは頼んでねぇだろ? お友達になろーよって言ってんじゃん」
「ねぇオネーサン、連絡先だけでいいからさ〜」
どことなくガラの悪そうな若い男性ふたりが、ひとりの女性をナンパしている。
見た感じ、男たちは酔っているようだ。女性は後ろ姿しか見えないけれど、綺麗な栗色のウェーブがかったロングヘアにスラリと背が高く、とてもスタイルがいい。
道行く人たちは見て見ぬふりで通り過ぎている。どうすべきか迷いながら歩く足を止めないでいると、とうとう男のひとりが女性の腕を掴んでギョッとした。
「ちょっと、オネーサン聞いてる?」
もう、考える間もなく身体が動く。
肩にかけていたトートバッグからスマホを取り出し、耳にあてながら思いきり息を吸い込んだ。