転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~
 気づきたくなかった。まさか自分の中に、こんな醜い部分があっただなんて。

 それにこの嫉妬という感情はほとんどの場合が特別な相手に関することでしか生まれないものだと、経験値の低い結乃でもちゃんと理解している。


(……私は、春人さんのことが──)


 そのとき。カチャ、と小さく音をたてて廊下から続くドアが外側から開かれ、結乃は思わず肩を揺らした。
 とっさにスマホカバーを閉じ、持っていた名刺を内側に隠す。


「結乃、まだ起きてたのか」


 顔を向けた先に立っていたのは、湯上がりで肩にタオルをかけたままの春人だ。
 彼はダイニングテーブルの結乃の姿に気づくと、そう言って後ろ手にドアを閉める。

 現在時刻は23時前。そこまで極端に遅い時間でもないが、春人がバスルームに入るときにはすでに結乃は歯磨きなどの就寝の支度を終わらせていたため、そんなセリフが出たのだろう。


「ちょっと……調べものをしてて」


 なんでもないように笑って答えた結乃に、春人は「そうか」とうなずいてキッチンへと向かう。

 冷蔵庫から常備してあるアイスティーを取り出す後ろ姿を見ながら、結乃はひそかに安堵の息を吐いた。


(よかった……変に、思われなくて)


 作り置きのアイスティーをグラスに注ぎ、中身を一気に飲み干す。
 そうして空っぽになったそれをシンクに置くと、春人は結乃のそばへとやって来た。


「今回の花もいいな。俺は花のことはよくわからないけど、結乃が選んで来るものは好きだ」


 言いながら、春人がちょんと指先で花弁に触れる。

 相変わらずの無表情ではあるがその言葉がうれしくて、胸がきゅうっと締めつけられた。今度は自然と笑顔になり、傍らの彼を見上げる。
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