転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~
「……結乃、大丈夫か?」


 カーテンの隙間から、月明かりが差し込む寝室。未だじんわりと快感が残る火照った身体をベッドに横たえ呼吸を整えていた結乃は、背後からかけられたその声でそっとまぶたを開けた。

 もう指先一本動かすことすら億劫だが、なんとか身じろぎして反転する。

 クイーンサイズの同じベッドの上、隣に寝転ぶ夫と向き合った。どこか気遣わしげに自分を見つめていた彼に、結乃はわざと拗ねた上目遣いを送る。


「大丈夫、だけど……春人さんはもう少し、自分と私との体力の差を考えてください」
「すまない。結乃があんまりかわいく煽ってくるから、いつも自制がきかなくなる」
「そ……っそんなこと、してません」


 一見すると無表情だが、臆面もなく恥ずかしいことを口にする春人の瞳はとろりと熱っぽく濡れている。一瞬言葉に詰まった結乃は、思わず目を泳がせながら反論した。

 そんな結乃のウブな態度に、落ちつきかけた劣情がまた燃えあがりそうになる。しかし春人は奥歯を食いしばり、理性を総動員させてその煩悩を抑え込む。


(ダメだ……さすがにこれ以上は、結乃の負担になる)


 初めて身体を重ねた彼女の誕生日から、1ヶ月あまり。こうしてもう何度も夜をともにしているとはいえ、結乃はいっこうに慣れない様子で毎度かわいらしい反応を見せてくれるし、春人自身も彼女に触れるたび未だ新鮮なよろこびと情欲を覚える。

 今夜だって、すでに散々妻の身体を暴いて貪ったあとにもかかわらず、どこまでも自分の本能は結乃を求め続けてしまうのだ。

 己の欲深さにあきれながらタオルケットの下にある結乃の素肌に手を伸ばし、彼女を胸もとに抱き寄せた。


「……本当に嫌だと思ったときは、言ってくれ。すぐに……できるだけ……たぶん……ちゃんと、我慢するから」
「っふ、全然信憑性がないですよ」


 耳もとで聞こえたあまりにも頼りないそのつぶやきに、思わず結乃は笑みをこぼしてしまう。

 少しの間のあと続けられた「……努力する」という堅い声にまた笑って、結乃は目の前にあるたくましい胸板に頬を寄せた。

 少し速い、春人の心臓の鼓動が伝わる。心地良いそのリズムが自分のものと重なり、穏やかな心地でうっとりとまぶたを下ろした結乃の中に──自然と去来する想いがあった。


(……好き、だなあ……)


 好き。春人のことが、好きだ。
 一度考えたら、もう、ダメだった。彼をいとしく想う気持ちがあとからあとから溢れてきて、結乃の胸はいっぱいになってしまう。
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