転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~
 もしかしたら──あの日あのホテルのラウンジで自分と出会わなければ、彼はこの女性と結ばれていたのかもしれない。


「……私、は──」


 ほとんど泣きそうになりながら、震える唇をなんとか動かそうとした、そのときだ。


「いい加減にしろ、レイラ」


 耳に届いた声に、一瞬思考が停止した。

 少し遅れて顔を上げた結乃は、リビングの出入り口に立っている人物を見て目を見開く。


「は、るとさ……」


 いつの間に家に帰ってきていたのか。まったく気がつかなかった。

 同じように目を向けたレイラが、余裕を崩さないまま「意外と早かったわね」などとつぶやいている。
 それが聞こえたのか、もとから顔をしかめていた春人がますます眉間のシワを濃くした。

 表情を変えないまま大股でリビングを進み、結乃の傍らへとやってきて自らも床にひざをつく。

 そうして片手を彼女の右肩に回すと、かばうようにぐっと自分の胸へ抱き寄せた。


「彼女を貶めるような発言はやめろ。一体どういうつもりだ」


 低い声には、静かな怒りが燃えている。

 レイラは一瞬虚をつかれたような顔をするも、すぐにまた美しい微笑みを浮かべた。


「どういうって……あなたの代わりに、伝えてあげてるんじゃない。もう私がいるんだから、かわいそうなお飾りの奥さんは必要ないでしょ?」
「『お飾り』?」


 春人が聞き返すと同時に、ドクンと結乃の心臓が大きくはねる。
 その言葉は──自分でも、考えたことのあるものだったから。

 するとそこで、肩を抱く春人の手に力がこもった。
 その力強さに驚いた結乃は、床に落としていた視線を思わず上げて春人へ向ける。

 斜め下から見る彼は迷いのない凛とした横顔で、レイラを見据えていた。
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