転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~
おそらく、前世で死亡した際のトラウマなのだろう。
ユノが命を落としたのは、戦場の真っ只中にあった救護施設だ。彼女が必死の救護活動をしていたその場所へ敵軍が攻め入ってきて、毒を仕込んだ矢に射られ絶命した。
自分の身体から流れ出る血はもちろん、床に倒れ込んだユノの目には辺り一面赤い色に染まったおそろしい光景が、事切れるその瞬間まで映り込んでいた。
少しずつ訓練して多少はマシになったが、赤い色は脳裏にこびりついて離れないあの地獄を思い出させる。そんな事情から、前世と同じ看護師への道を諦めたのだ。
それでも結乃は、今の自分の仕事にも誇りとやりがいを感じていた。だからこそ全力で入れ込み、結果この年齢になるまで、ほとんど恋愛経験を積む機会がなかったともいえる。
苦笑しながら、一瞬よぎった赤い光景に鼓動が速くなるのを宥めるようにティーカップを持ち上げ口をつけた。
そんな結乃を、テーブルを挟んだ向かい側の春人はただ無言で見つめている。
その静かな眼差しに結乃が少しだけ動揺しかけたところで、彼はひとつうなずいた。
「そうか。何にしろ、白川さんなら生徒たちにとっていい先生なんだろうな」
……驚いた。まさかあの朴念仁の口から、こんなセリフを聞けるなんて。
いや違う。今のこの人は“黒須春人”であって、前世で幼なじみだった“ハルトヴィン・ラノワール”じゃない。
(一度生まれ変わって、多少はお世辞とか愛想を覚えたのね……)
なんだか勝手に感慨深くなりながら、結乃は素直に照れくさくてはにかんだ。
ユノが命を落としたのは、戦場の真っ只中にあった救護施設だ。彼女が必死の救護活動をしていたその場所へ敵軍が攻め入ってきて、毒を仕込んだ矢に射られ絶命した。
自分の身体から流れ出る血はもちろん、床に倒れ込んだユノの目には辺り一面赤い色に染まったおそろしい光景が、事切れるその瞬間まで映り込んでいた。
少しずつ訓練して多少はマシになったが、赤い色は脳裏にこびりついて離れないあの地獄を思い出させる。そんな事情から、前世と同じ看護師への道を諦めたのだ。
それでも結乃は、今の自分の仕事にも誇りとやりがいを感じていた。だからこそ全力で入れ込み、結果この年齢になるまで、ほとんど恋愛経験を積む機会がなかったともいえる。
苦笑しながら、一瞬よぎった赤い光景に鼓動が速くなるのを宥めるようにティーカップを持ち上げ口をつけた。
そんな結乃を、テーブルを挟んだ向かい側の春人はただ無言で見つめている。
その静かな眼差しに結乃が少しだけ動揺しかけたところで、彼はひとつうなずいた。
「そうか。何にしろ、白川さんなら生徒たちにとっていい先生なんだろうな」
……驚いた。まさかあの朴念仁の口から、こんなセリフを聞けるなんて。
いや違う。今のこの人は“黒須春人”であって、前世で幼なじみだった“ハルトヴィン・ラノワール”じゃない。
(一度生まれ変わって、多少はお世辞とか愛想を覚えたのね……)
なんだか勝手に感慨深くなりながら、結乃は素直に照れくさくてはにかんだ。