転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~
「……春人さん」
名前を呼んで、肩に置かれた大きな手にそっと自分の手のひらを重ねた。
「どうした?」と優しげな眼差しで覗き込んでくれる春人を、結乃はまっすぐに見つめる。
「今日は……青山さんとの飲み会じゃ、なかったんですか?」
「……あー」
春人が逡巡するように一瞬だけ目を逸らすが、すぐにまたしっかり結乃と視線を合わせた。
「そのはずだった。けど、仁が……俺たちの大学時代の友人のレイラを、俺に内緒で呼んでいたんだ。レイラは大学を卒業したと同時にアメリカに行っていて、つい最近また日本に戻ってきたらしい。仁から今夜のことを聞いたレイラが、自分も混ぜろと言ってきたそうだ」
彼の口からあの女性の名前が出るたびに、ズキズキと胸が痛む。
だけど結乃は、構わずまた訊ねた。
「春人さんは、レイラさんと……付き合って、いたんですよね?」
「……聞いたのか。たしかに、事実だ。2年の途中から卒業の少し前まで、だったか」
僅かに苦い表情で、春人は続ける。
「正直に、最低な話をすれば……付き合っていたといっても、俺の中に恋愛感情は芽生えていなかったと思う。……あの頃の俺は、今よりまだずっと無感情な人間だったから。レイラの多少行き過ぎた我儘も、逆らうことすら面倒だと飲み込んで、好きにさせてばかりいた。そんな俺の無責任な態度がきっとレイラの自尊心の高さを助長させて、同時に言いなりにしやすい俺の価値を高めてしまったんだろう。今は、まあ……少しは俺もマシになったとは、思いたいが」
そしてそれはきっと、口にはしないが仁のおかげなのだと思う。行動力の塊のような仁に振り回される日々の中で、少しずつ自分は、人間らしくなれた。
名前を呼んで、肩に置かれた大きな手にそっと自分の手のひらを重ねた。
「どうした?」と優しげな眼差しで覗き込んでくれる春人を、結乃はまっすぐに見つめる。
「今日は……青山さんとの飲み会じゃ、なかったんですか?」
「……あー」
春人が逡巡するように一瞬だけ目を逸らすが、すぐにまたしっかり結乃と視線を合わせた。
「そのはずだった。けど、仁が……俺たちの大学時代の友人のレイラを、俺に内緒で呼んでいたんだ。レイラは大学を卒業したと同時にアメリカに行っていて、つい最近また日本に戻ってきたらしい。仁から今夜のことを聞いたレイラが、自分も混ぜろと言ってきたそうだ」
彼の口からあの女性の名前が出るたびに、ズキズキと胸が痛む。
だけど結乃は、構わずまた訊ねた。
「春人さんは、レイラさんと……付き合って、いたんですよね?」
「……聞いたのか。たしかに、事実だ。2年の途中から卒業の少し前まで、だったか」
僅かに苦い表情で、春人は続ける。
「正直に、最低な話をすれば……付き合っていたといっても、俺の中に恋愛感情は芽生えていなかったと思う。……あの頃の俺は、今よりまだずっと無感情な人間だったから。レイラの多少行き過ぎた我儘も、逆らうことすら面倒だと飲み込んで、好きにさせてばかりいた。そんな俺の無責任な態度がきっとレイラの自尊心の高さを助長させて、同時に言いなりにしやすい俺の価値を高めてしまったんだろう。今は、まあ……少しは俺もマシになったとは、思いたいが」
そしてそれはきっと、口にはしないが仁のおかげなのだと思う。行動力の塊のような仁に振り回される日々の中で、少しずつ自分は、人間らしくなれた。