転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~
 ぽつぽつと語る春人の表情と声音は、レイラに対しても申し訳なく思っているのだろうと感じるもので。

 そんな彼の優しさが、結乃は好きで──そして、残酷にも思う。


「……ここの、住所……春人さんから、聞いたって、言ってた」


 ぎゅっと春人の手を掴みながら、それまでとは違う拙い口調の結乃が、泣くのを堪えるように顔を歪ませて問いかける。

 春人は彼女の手を逆に握り込むと、そのまま頭の上をくぐらせて肩から結乃のひざの上へと繋がった手を下ろした。


「悪かった。引っ越しをするつもりだから、参考にしたいと言われて……住んでいる地域やマンションの形態の話をしているうち、いつの間にか特定できるところまで話してしまっていた。もっと、防犯意識を持つべきだな」


 真摯な表情で答えてくれる春人に、結乃は目を伏せてふるふると首を横に振る。

 ……違う。これは、自分の勝手な我儘だ。

 “友人”に住所を教えるのは、悪いことなんかじゃない。
 ただ結乃が、ふたりの親密さに嫉妬しただけ。
 自分よりもずっと美しく聡明なレイラに春人を奪われてしまうかもしれないと、不安になっただけ。

 先ほどから宥めるように自分の手の甲を撫でてくれている春人のぬくもりに、ますます結乃の涙腺は緩む。

 そのうるんだふたつの瞳を、再度彼へと向けた。
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