転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~
「──前世で……俺と、結乃が……」


 話を聞き終えた春人が、呆然とした様子でつぶやく。

 結乃はといえば途中から彼の顔を見ることができなくて、うつむきながら自分のひざに置いた手を見つめてばかりいた。

 実は結乃には、前世の記憶というものがあること。
 その前世では、なんと春人の転生前の姿と思われる幼なじみがいたこと。
 あのホテルのお見合いの席で初めて春人に会ったときから、幼なじみの生まれ変わりであることには気づいていたこと。
 さすがに、仁のことはひとまず伏せたが……どうやらその幼なじみは、結乃の転生前の姿であるユノに好意を寄せていたらしいこと。


「私は前世のあなたを知っていたから、あまり警戒心も持たずに結婚の話を受け入れることができました。春人さんが、初対面から私のことを気に入ってくれたのも……たぶん無意識下で、前世の記憶に引っぱられたからなんだと思います。……ごめんなさい」


 ──ああ、言ってしまった。
 そう考えながら、結乃はぎゅっと固く目をつむる。

 聡い彼なら、ここまで言えば気づいたはずだ。彼が先ほどくれた、「愛してる」の感情だって……もしかすると、記憶に引っぱられた刷り込みによるものなのかもしれないと。

 前世からの縁なんて、人によっては『運命』だなんて言うのだろうか。

 だけど、結乃に言わせればこれは『呪い』だ。春人の意思に関係なく、“ユノ”の生まれ変わりである“結乃”を欲するように、仕向けられているのだから。 


「……すまない」


 閉じたまぶたの外側で落とされたつぶやきに、ビクリと身体が震えた。

 ここで、謝罪のセリフ。
 やっぱり勘違いかもしれないと、言われるだろうか。いっそ、気味が悪いから離婚してくれと言われるだろうか。
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