転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~
 キッパリと言った彼が、固く握られた結乃の左手に自分のそれを被せる。


「初めて会ったときから特別に思えたのは、たしかに本能だったのかもしれない。だけどきみの笑った顔が好きだとか、話し方が落ちつくだとか、この気持ち全部が前世の俺のものだなんて、そんなことはありえない」


 そうして春人は、まっすぐな眼差しで結乃を見つめながらすり、と薬指のリングを親指で撫でた。


「改めて誓う。俺は、俺が愛する“黒須結乃”を、生涯守り抜くと」


 声に、ならなかった。

 ただ見開いた目からぼたぼたと涙がこぼれ落ちて、結乃のひざを濡らしていく。

 なんてことだ。こんなにいとも簡単に、結乃の胸の中の不安や後ろめたさを払ってくれるなんて。

 引け目なんて、感じる必要はなかった?
 自分は自分のまま、春人に愛されていい?


「むしろ、気の毒なのはきみの方だろう。前世でも今世でも、俺に執着されている」


 絶えず涙をあふれさせる結乃の目じりにキスをしながら、春人が苦笑する。


「しゅ、執着、だなんて……」
「俺はずっと、自分は恋愛ができない人間だと思っていたから、本気の相手にはこんなふうになるなんて知らなかった。きみは優しいから、いつか絆されてくれるんじゃないかと期待してる。たぶん俺は、きみの知る“ハルト”よりタチが悪い」


 そんなことを言ってどこか意地悪そうに微笑む彼に、結乃は気づく。

 まだ、自分は──胸に秘めたこの想いを、さらけ出していないと。
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