転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~
 果ての見えない暗闇。
 届かない声。
 目の前にいる、誰かの後ろ姿。


(……ああ、そうか)


 夢の中で、ずっと、その顔を見せて欲しいと焦がれていた。

 ずっと、触れてみたかった。


「……そうか」


 今自分の下で、ぎゅっと目を閉じながら春人の熱を受け止めてくれている最愛の女性。

 その顔の輪郭を手のひらでなぞり、自然と笑みが浮かぶ。


「あれは、きみだったんだな」
「──え」


 春人のつぶやきにまぶたを開けた結乃が、硬直する。

 愛おしげに微笑みながら自分のことを見つめる春人が、なぜかその両の瞳からボロボロと大粒の涙をこぼしていた。


「春人さん!? えっ、なんで、泣いて……っ?!」


 とっさに半身を起こしかけるも、のしかかられた今の体勢では思うように動けない。
 動揺する結乃の視線の先で、春人は別段慌てた様子もなく、ぐいと自らの目もとを手の甲で拭った。


「……結乃」


 オロオロとわかりやすく狼狽える彼女の名を、春人がささやく。

 そうして彼と目を合わせた結乃の心臓が、またドキリと大きくはねた。

 常夜灯の明かりを僅かに受けて煌めく、その瞳の色が──まるで前世での彼のような、淡い色彩に見えたから。


「はる、」


 もっと近づいて、確かめようとする。けれどもそれは、身体を倒してきた春人に唇を塞がれたことで叶わなかった。

 貪るような少し荒っぽいキスに、思考が溶かされる。同時にゆっくりと律動を開始され、完全に意識をもっていかれた。


「んっ、んん、ふ……っ」


 口を塞がれている分呼吸が上手くできなくて、息苦しい。
 なのにそれすらも快感へと変わり、また結乃の中の熱は高まっていく。


「っはあ、」


 不意に唇が解放され、ふたり同時に大きく息を吐き出した。
 自然と、視線が絡み合う。熱に浮かされたように自分を見つめる春人の瞳は、いつもと同じ深い闇色だった。

 さっき見えたあの色は、気のせいだったのだろうか──そんな結乃の思考は、春人の動きに翻弄されすぐに霧散してしまう。


「愛してる、結乃……!」
「あ……っ」


 普段とは違う余裕のない声が何度も愛をささやくから、結乃の心臓はまたキュンと切なく痺れた。

 体内の熱がまた急速に膨らんでいくのを感じながら、結乃はうるんだ瞳で繰り返し春人を呼ぶ。


「は、るとさん、わたしも……っ、すき、大好き……!」


 幸せな涙が、ポロリとひと雫彼女の目尻からこぼれた。
 冷めることのない熱情に囚われて、ふたりの夜はまだまだ続く。
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