転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~
エピローグ:或る夫婦の休日
穏やかな、日曜の昼下がりだった。
「えっと……きちゃいました」
へらりと笑った結乃が、どこか情けなくも思える声音で言った。ソファーでIT系雑誌を読んでいた春人は、傍らに立つ彼女をきょとんと見返す。
けれども彼女の片手が腹部にあてられていることに気づき、言外に含まれた意味に思い至ったらしい。きっかり3秒後、春人は手にしている雑誌をパタンと閉じると、神妙な様子で小さくうなずいた。
「……そうか」
「えっ待って、今のそれはどんな感情の顔なの……?」
いつも見慣れた無表情のようで、だけどどこか悲しそうでもあり安堵しているようでもあり、ひとことでは言い表せない複雑な表情だった。
結乃は彼へと近づくと、その隣にすとんと腰を下ろして端整な顔をまじまじ見つめる。
「春人さん?」
「いや……」
説明を求め、名前を呼ぶ。
すると春人は結乃から視線を逸らして、しばし黙り込んでしまった。
根気強く待つ結乃の耳に、ようやく静かなつぶやきが降ってくる。
「残念……が、たぶん1番だ。だけど、やっぱりいろんな面で負担が大きいのは結乃だし、そもそもちゃんと事前に話し合っていたわけでもないのに突然妊娠させてしまっても……というのもあって、少し気が抜けた」
淡々とした話し口調ながら、その実内容は結乃を気遣う言葉ばかりだ。
これ以上なく丁寧に結乃の疑問を解してくれた答えに満足した結乃は、ニッコリと笑顔を浮かべた。