転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~
ドアノブとトレーで両手を塞ぎ固まる結乃と、通話を続けながらもそんな彼女とじっと視線を合わせている春人。
不意にその目がふっとやわらかく細められ、かと思うと片手をちょいちょいと動かして結乃を手招いた。
迷惑がられなかったことに安堵しつつ、物音をたてないようドアを閉めて慎重に彼へと近づく。
合わせた視線に力いっぱい『お疲れさま』のひとことを込めながら静かにトレーをデスクへ置き、無事ミッションをコンプリートした結乃はそそくさと踵を返そうとした。
……が。
「ひゃ、」
突然掴まれた左腕を引かれ、後ろに身体が傾く。
とっさに上げかけた悲鳴は完全には飲み込みきれず、僅かに漏れてしまった。
バランスを崩した結乃は椅子に座った春人の腿に尻もちをつくことになり、目を白黒させながら自分を引き止めた彼の顔を見上げる。
(春人さん?!)
声には出さずパクパクと口を動かすが、結乃を見つめる春人の顔は満足そうに緩み、解放してくれる気配がない。
春人はあろうことか、ひざに妻を載せたその状態のまま淡々と通話を続けていて、時間の経過に従い結乃の頬はじわじわと熱を持っていく。
(は、恥ずかしすぎる……!)
自分が大人しくしてさえいればバレることはないだろうが、通話相手もまさか春人が妻を抱きしめながらこの会話をしているとは思ってもいないだろう。
音をたてないようもがいて、なんとか脱出を試みる。けれども春人は背後から結乃の右肩に顎を載せて動きを封じ、おまけに左手でがっちりと腹部をホールドされているため、まったく抜け出せそうもない。
「……ああ、その件なら、すでに先方にも説明済みだから──」
滑らかに通話を続行している低い声が、至近距離で結乃の耳をくすぐる。
相手に見えていないとはいえ仕事中にこんなおふざけをして、春人は一体どういうつもりなのか。赤い顔で春人を振り仰いだ結乃は、じっとりと大袈裟にうらめしげな視線を送ってみせる。
不意にその目がふっとやわらかく細められ、かと思うと片手をちょいちょいと動かして結乃を手招いた。
迷惑がられなかったことに安堵しつつ、物音をたてないようドアを閉めて慎重に彼へと近づく。
合わせた視線に力いっぱい『お疲れさま』のひとことを込めながら静かにトレーをデスクへ置き、無事ミッションをコンプリートした結乃はそそくさと踵を返そうとした。
……が。
「ひゃ、」
突然掴まれた左腕を引かれ、後ろに身体が傾く。
とっさに上げかけた悲鳴は完全には飲み込みきれず、僅かに漏れてしまった。
バランスを崩した結乃は椅子に座った春人の腿に尻もちをつくことになり、目を白黒させながら自分を引き止めた彼の顔を見上げる。
(春人さん?!)
声には出さずパクパクと口を動かすが、結乃を見つめる春人の顔は満足そうに緩み、解放してくれる気配がない。
春人はあろうことか、ひざに妻を載せたその状態のまま淡々と通話を続けていて、時間の経過に従い結乃の頬はじわじわと熱を持っていく。
(は、恥ずかしすぎる……!)
自分が大人しくしてさえいればバレることはないだろうが、通話相手もまさか春人が妻を抱きしめながらこの会話をしているとは思ってもいないだろう。
音をたてないようもがいて、なんとか脱出を試みる。けれども春人は背後から結乃の右肩に顎を載せて動きを封じ、おまけに左手でがっちりと腹部をホールドされているため、まったく抜け出せそうもない。
「……ああ、その件なら、すでに先方にも説明済みだから──」
滑らかに通話を続行している低い声が、至近距離で結乃の耳をくすぐる。
相手に見えていないとはいえ仕事中にこんなおふざけをして、春人は一体どういうつもりなのか。赤い顔で春人を振り仰いだ結乃は、じっとりと大袈裟にうらめしげな視線を送ってみせる。