転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~
 とりあえず、食堂に向かおうか。身体を動かしたわりに食欲はないのだが、午後から王太子殿下の視察同行があるため今のうち何か口にしておいた方がいいだろう。

 踵を返したハルトの前方には、ふたり組の男が連れ立って歩いていた。彼らは若手の一般騎士で、片方はハルトが先ほどの戦闘訓練時に僅か7秒で剣を弾き飛ばした相手だ。

 何やらわいわいと楽しげに会話しながらハルトと同じ方向に向かっている彼らが、ふと、どこかに目を留めて歩くスピードを緩める。


「おっ。医務室のブランシュ殿だ」


 聞こえたその名前にピクリと反応した。

 ハルトは自然と首をめぐらせて、自分がいる渡り廊下から右斜め前方の庭園に見知った女性の姿を確認する。

 あの方角なら、薬草園にでも行ってきたか。大きな籠を持って両手を塞いだユノは、視線を向ける自分の存在に気づかないままこちらに向かって歩いてくる。

 王宮付き看護師の制服であるブルーのワンピースに重ねた白いエプロンが、日差しを反射するためだろうか。彼女の姿がやけにまぶしく思えたハルトは、ユノに向けた視線を外さないまま目を細める。

 するとさらに、前を歩くふたり組の会話が意図せず耳に入ってきて──その内容に、ハルトは知らずうち思いきり眉を寄せていた。


「実は俺、ブランシュ殿のこと気になっててさー。あまり華やかなタイプではないけどよく見れば結構かわいい顔してるし、ちょっと勝気な感じがするところもグッとくる」
「ああ……まあ、たしかに。色が白いのは俺も好みだ」
「だろ? あとあの、青いワンピースの制服。宮廷看護師全般に言えることだけど、禁欲的でめちゃくちゃそそる」
「『このむっつりスケベが』とツッコみたいところだが、わかる」
「だよなぁ!! は~、あのキッチリ隙なく留めたボタンをこの手で外してやりたい……宮廷看護師って忙しそうだけど、恋人はいるのかな。今度食事でも誘ってみようかなー」
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