転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~
1:お見合い相手は幼なじみでした(ただし前世の)
七日正月も過ぎて、世間が日常を取り戻しつつあるこの頃。新年2度目の土曜日である今日の空は、殊更清々しく晴れ渡っている。
そんなさわやかな日和の正午過ぎ、お気に入りのエレガントなブルーのワンピースを翻しながらパンプスの踵を鳴らして外資系高級ホテルのロビーを歩く白川結乃は、この場に似つかわしくない険しい表情を浮かべていた。
「こんなの、聞いてない!」
感情的に上げた声は自分でも思う以上に大きくなってしまい、結乃は慌てて口をつぐむ。
自らを落ちつかせるように深く息をつき、粗雑になってしまっていた歩調を整えた。
同時に、数歩先を進んでいた四十代半ばほどの女性──結乃の叔母である美智代が、こちらは機嫌良さげな様子で振り返る。
「だって言ってないもの。正直に伝えてたら、結乃ちゃん断ってたでしょう?」
「あたりまえじゃない! 私は別に、お見合いなんて……っ」
「美紗子も心配してるのよー? 真結ちゃんはとっくに結婚して子どももいるのに、姉の結乃ちゃんはいつまで経っても男っ気がないって。これも親孝行だと思って、少し付き合ってちょうだい」
彼女の言う『美紗子』とは結乃の母親であり、美智代の姉だ。そして『真結』が、現在28歳である結乃より3つ年下の妹である。
真結は短大を卒業してすぐに当時付き合っていた2歳上の彼氏と結婚し、翌年には元気な男児を出産した。
もうすぐ4歳になる彼は、やんちゃ盛りのいたずらっ子とはいえ結乃にとってもかわいい甥っ子だ。
気軽な調子で話してはいるが、美智代の言葉には有無を言わさない響きがある。
結乃は再びため息を吐くと、クラッチバッグを持っていない左手で同じ側の耳にあるパールのピアスをいじった。