転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~
2:クールな副社長の甘すぎる心情について
最近、同じ夢ばかりを繰り返しみる。
春人は夢の中で、真っ暗な闇に包まれながら立ち尽くしていた。
周囲に明かりなどは何もないが、自身のことははっきりと識別することができる。
なぜならばそれは、毎度自分の身体がぼんやりと白く発光しているからで──正面にはいつも、自分のように淡い光を纏う女の姿があった。
顔を見たことは一度もない。いつだって彼女は自分に背を向けた形で、静かにそこに佇んでいたからだ。
紅茶色の長い髪を後ろでひとつの三つ編みにし、裾がふくらはぎの中ほどまである青いワンピースに真っ白なエプロンを身につけた、おそらく若い女。
その華奢な背中を捕まえたいと思うのに、伸ばした春人の手はいつも、彼女には届かなかった。
「待ってくれ」と発したはずの言葉は声にならず、前に踏み出そうとする両足は、まるで石にでもなってしまったかのように動かない。
ただ呆然とその背中を見つめる春人の背後から、今回もまた、いつもと同じ男の声がした。
──“もう、離してくれるなよ”。
「……ッ、」
どこか聞き覚えのある声の主を振り返ろうとしたところでハッと目が覚めるのも、これまでと一緒だ。
覚醒した春人は自室のベッドで仰向けになったその体勢のまま、知らずうちに止めていた息を深く吐き出した。
普通の夢ではないとわかるのに、不思議と嫌な気はしない。
ただなぜか、どうしようもない焦燥感が彼を包み込むのだ。
「……誰なんだ、あんたたちは」
持ち上げた右腕をひたいにかざし、天井を睨む。
春人の疑問に、答えが返ってくることはない。小さく落とされたつぶやきは、朝の空気に消えていった。