転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~
 春人が待ち合わせ場所のコーヒーショップにたどり着くと、タイミング良く待ち人もやって来たところだった。


「春人さん! こんばんは」


 店の前で鉢合わせた結乃が、春人の顔を見るなりふにゃりと破顔する。

 立春が過ぎれば暦の上では春とはいえ、2月の夜は当然冷える。顎先までをすっぽりとマフラーで覆った彼女は、鼻の頭が赤くなっていた。

 そのあどけない笑顔にギュッと心臓をわし掴まれたような心地がして、グレーのチェスターコートの胸もとを思わず押さえる。


「……ああ。こんばんは」
「あ、あとお疲れさまです。仕事終わりに会うのって初めてですねぇ」
「そうだな」


 うなずいた春人が同じく「きみも、お疲れさま」と言葉をかけると、結乃は一瞬目を大きくし、花がほころぶようにまた笑った。


「ふふっ、はい。ありがとう、春人さん」

(……かわいい)


 じっと彼女の顔を見下ろしながら、傍目には無表情な春人はそんなことばかり考えている。

 結乃といるときの彼は、実はいつもこんな感じだ。一見冷たそうにも見えるクールな美貌の内側は、ただひとりの女性に愛をささやきまくっている。

 ……それを本人に直接的な言葉で伝えることはないのが、春人の残念なところであるのだが。
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