転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~
 多少なりとも春人のことを知っている人間であれば、日頃寡黙な彼がこれほど熱心に言葉を尽くす姿を見て唖然としただろう。

 見据えた先にいる結乃の身体が、ピクリと揺れて反応した。
 気づいた春人は、ダメ押しとばかりに言葉を重ねる。


『話したのは今日が初めてだが、俺はきみとなら、うまくやっていけるんじゃないかと思った。こうして一緒にいることが、なんだか妙にしっくりくるんだ。結乃は、どう思う? 俺が相手では、嫌だろうか』


 我ながら、必死だ。
 もしこれを傍らで仁が聞いていたら、「仕事の話してるときより熱がこもってるじゃねぇか!」と爆笑していたに違いない。

 らしくないと自分でもわかっている。それでも春人は、今目の前にいる女性を手に入れるため、恥も外聞も捨ててただひたすらに言葉を尽くそうと覚悟していた。

 結乃の返答を待つ。永遠にも思えた数秒後、彼女は戸惑いを隠さない表情のままゆっくりと口を開いた。


『い……嫌なんてことは、ありません。むしろ、私なんかにはもったいなさすぎるお話というか……』
『「私なんか」でも、もったいないこともない。俺は、きみがいいんだ』


 間髪入れず返すと、頬を染めた彼女が少しの間目を泳がせる。

 やがてコクンと、小さくうなずいた。


『わかり、ました。私でよければ……よろしく、お願いします』


 おずおずとしたその言葉を聞いた瞬間、春人は息を呑んで反射的に訊ねていた。


『……本当か?』 
『こんなことで、嘘なんてつかないです』


 照れくささを誤魔化すためか、結乃は不躾な問いかけに対しどこかうらめしそうな上目遣いで春人を見る。

 その表情にすら愛おしさを覚え、たまらず彼の頬が緩んだ。


『そうか。ありがとう、結乃』


 本人は意図していなかったが、そうつぶやく春人の声はまるで砂糖菓子のように甘い。

 もはや結乃は、顔を上げられず──テーブルの上のティーカップに視線を落としたまま、真っ赤な顔で首を縦に動かしたのだった。
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