転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~
 昔から口下手で、言葉が足りないと言われてきた。
 そんな春人にとって、こちらの淡白な受け答えに気を悪くする様子もなくこんなにも楽しそうに話を聞いてくれる女性の存在は初めてだった。

 彼女は自分の言葉の足りない部分をきちんと汲み取り、そこに誤解を生むこともなく、意図を正しく受け取ってくれているような気がする。

 甘えかもしれないとも思うが、その感覚が心地いい。春人の中で、ますます結乃に対する好感度が膨らんでいった。


「春人さん、ごちそうさまです。すみません、全部出してもらっちゃって……」


 食事を済ませてレストランの外に出ると、結乃が申し訳なさそうに言う。

 春人は自らのコートのボタンを留めながら平然と答えた。


「誘ったのはこっちなんだから、気にするな。それに初めてのふたりきりの食事くらい、俺がごちそうしたい」


 サラリと続けると、結乃は「うう」と小さくうめいてマフラーに顔をうずめる。

 不本意そうなその顔が赤く染まって見えるのは、気のせいではないだろう。きっとそれはアルコールや冬の寒さのせいだけではないとわかって、自然に春人の口角が上がった。

 自宅までタクシーで送り届けるつもりが頑なに彼女に遠慮されたため、仕方なく駅までの道のりを並んで歩く。
 初めての、デートらしいデート。しかも会うのが夜で翌日は互いに休日ともなれば、多少なりとも期待してしまうのが健全な男の性だ。

 けれども春人は、そんな自分の下心を決して結乃には悟らせまいと、いつも以上に意識した無表情を貼り付けて彼女の右隣を歩いていた。

 ──せめて入籍を済ませるまで、結乃の前では紳士でいる。
 突然のプロポーズに彼女がうなずいてくれたあのとき、春人がひそかに誓ったことだった。


(結乃は、俺のことが好きなわけじゃない……)


 春人の心は、すでに結乃のものだ。けれど、彼女にとってはそうじゃない。
 ちゃんと理解している。だからこそ、欲望に任せて無理強いはしたくなかった。
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