転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~
(来年の今頃までには……結乃も俺の中に、何かひとつでも唯一の価値を見つけてくれるだろうか)


 そんなことを考えながら、結乃を閉じ込める腕の力を強くする。


「いきなりすまない。けど今は、こうさせてくれ」


 すぐそばで落とされた熱のこもったささやきに結乃は狼狽え、顔を赤くしながら、それでも言われた通り拒絶はしない。


「あ、もしかして春人さんも、実は結構寒かったです……?」


 この状況に、必死で理由付けを試みたようだ。おそるおそる発せられた斜め上を行くセリフに若干脱力するも、あえて春人は否定しなかった。

 結乃は図星だと思い込んだらしい。少しの間のあと、そっと控えめに、自らの両手を春人の身体へと回した。


「ごめんなさい、私の手が冷たいから、体温奪っちゃいましたね」


 言いながら、小さな手のひらがコート越しの背中を撫でる。

 春人はグッと息を止めてから、また深く吐き出した。


「結乃のせいじゃない」


 くぐもった声でうなるようにつぶやくも、それきり春人はまた黙って、ひたすら結乃を抱きしめる。

 周りの目が気になるけれど、結乃は両足に力を入れてその羞恥に堪えた。否定はしてくれたが、春人がこんな状態になってしまっているのは、どうやら自分のせいもあるようだから。


「……やっぱり、身体大きいですね」


 耳に届いた小さなささやきに、春人は少しの違和感を覚える。

 だけどやはり冷静な思考はできなくて、胸に収まるやわらかさと甘い香りに酔いしれた。

 結乃のすべてが妙に自分と馴染んで、情欲を煽る。けれど同じくらい、布越しに伝わる少し速い彼女の心臓の鼓動や体温が、なぜか春人にどうしようもない安堵感を覚えさせた。


(我ながら、呆れるほどひどい執着心だ。もう俺は、結乃なしでは生きていけない気がする)


 きっと自分は、彼女に会うために生まれてきたのかもしれない。

 春人は柄にもなく、そんなことを思った。
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