転生夫婦の新婚事情 ~前世の幼なじみが、今世で旦那さまになりました~
(ちゃんと考えて答えを出したつもりだったけど、全然わかってなかったんだ……)


 ならば自分も、きちんと向き合わなければならない。それが、この結婚を承諾した者の責任だ。

 いろいろとまだ気持ちが追いつかない部分はあるが、結乃は改めて腹を括る。

 そして、春人の目をまっすぐに見上げてうなずいたのだ。


『わかりました。一緒のベッド、どんとこいです!』


 頬を染めながらも健気に自分を見つめる眼差しに、春人はぐらりと理性が揺らいで危うくその場で手を出してしまいそうになったのだが、脳内で素数を数えることでなんとか堪えた。

 無表情の裏側でそんな葛藤があったとは、つゆ知らず。開き直った結乃はさっそくスマホを使い、好みのベッドを探す作業に取りかかったのだった。


(こっちのハルトは、経験豊富そうだなあ……)


 前世での彼はともかく、今世の彼はいろいろな部分がマイルドになった分それなりに交際経験はあると見ている。
 広々としたバスルームで湯船に浸かりながら、結乃はぼんやりそんなことを考えていた。

 あの見た目と肩書きだ。きっと、数々の美女と浮名を流してきたに違いない。
 不躾にも推察しながら、なぜかズキンと胸が痛む。

 春人から、初めて食事に誘われた夜。手を繋いで、なんと駅では別れ際に抱きしめられたりもしたのだが、あれ以降今日まで、彼が結乃にそういった接触をしてくることは一度もなかった。

 それを、どこか寂しいと思うだなんて──実際またあんな状況が起こったら慌てふためくだけのくせに、自分でも勝手だとわかっている。


(いや! 別に触って欲しいとかじゃなくて!)


 ブンブン首を横に振って思考を追い払った結乃は、不意に前世の記憶へと思いを馳せる。
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